遺跡船道中記

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レビュー:『ファタモルガーナの館』【3DS版/感想/ネタバレあり】  

3DS版『ファタモルガーナの館』の感想を書いていきたいと思います。

※『ファタモルガーナの館』に関してのネタバレを含みます。未プレイの方はご注意ください。

 

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▼作品概要

ジャンル:西洋浪漫サスペンスホラー

開発元:Novectacle

[3DS]フリュー

[PSVita]dramatic create

シナリオ:縹けいか

音楽:がお、Mellok'n、Yusuke Tsutsumi、Aikawa Razuna、守屋昂生

美術:靄太郎

プレイ時間:25~35時間ほど

ストーリー:

「その館に住む者は、必ず不幸になる」

呪われた館で目覚めた「あなた」は、自分自身を失っていた。記憶はおろか、生きているのかどうかも分からない。

そんな「あなた」を、館の主だと告げて慕う女中がいる。彼女に導かれて、館の様々な時代で起きた悲劇を「あなた」は目撃していく。

なぜ館は存在し続けるのか。なぜ「あなた」は館にいるのか。すべてを解き明かすために、「あなた」は扉を開く。

これは、人の業と、絶望と、狂気の物語だ。

 

 

▼感想

○構成の素晴らしさ

 とりあえず、全体の構成が見事でしたね…。「他人の悲劇」である序盤4章の長いプロローグ、そしてその後に待ち受けるミシェル自身の悲劇、モルガーナの救済と続くわけなんですが。いくつか印象的だった点を書いていきます。

 まず第一に、序盤の4章を「あなた」として、敢えて“誰目線なのか”をはっきりさせないところ。ここは非常にうまいなーと思いました。というのも、視点が曖昧になることで、ゲームプレイヤーは“傍観者”としての意識がより強くなるからです。言い換えれば、物語への没入度が相対的に下がるような感覚です。そのせいか、序盤に関しては私は少し退屈でした(笑。あまりにも暗い話が続くので途中で投げ出そうかと思ったほどです…。しかし、この長い長い“傍観者”としてのスタンスがあったからこそ、第5章以降で「ミシェル(≒プレイヤー)自身の悲劇」に対する没入度(とそれに伴う大きな悲愴)は極限まで高まります。ゲームを始める前はわけが分かりませんでしたが、公式がHPなどにストーリー紹介として打ち出している以下の文。クリアした後だと凄く胸に来るものがありますよね。

「あなた」は時代と場所を超えた四つの悲劇を目撃する。

これらを物語として終えてしまうのか。

あるいはその先を求めるのかは…

「あなた」次第だ。

しかし、どこかの誰かはこう言うだろう。

「他人の悲劇だから耐えてこられたんだよ」 

 

そう、ストーリーを進めるか否かはまさに「あなた(≒プレイヤー)」次第なのです。第4章で終わっていれば、「白い髪の女」とミシェルの心の交流が描かれた甘美な記憶で幕を閉じることが出来る。でも、ここで終わっては、本当の意味でミシェルとジゼルが結ばれるあの真のエンディングへは辿り着けない…。エメの仕打ちやモルガーナの境遇は本当に酷くて、途中何度も投げ出しかけました。しかし、あの苦しみがあったからこそ、最後に最高のカタルシスを得られたのだと思います。是非最後までやりぬいてほしい作品です。

第二に、伏線回収の鮮やかさが挙げられます。序盤の3章で出てくる3人の男。彼らは全員何かしら業であったり弱さだったりを抱えているのですが(以下を参照)、それぞれの章でそれらが改善されたりすることは決してないんですよね。むしろその弱さのせいで物語は悲劇へと進んでいきます。本当に救いがない…。

 

○メル:自己愛…自分が愛されていたいがために他人にも優しくする。その優しさや優柔不断が結果的に白い髪の女やネリーを傷付けることになってしまった。

○ユキマサ:境界…人間性と獣性、理性と狂気などの境目を行き来する。2章では記憶をなくして「獣」となり、最終的に刃止めとなっていたポーリーンも殺してしまう。作中一のサイコパス

○ヤコポ:傲慢(仮)…「虚飾」の方がいいだろうか…。自信の無さからか、なかなか胸中をさらすことが出来ず、虚勢を張ってしまう。結果としてそれがマリーアの死や白い髪の女の失踪に繋がった。

 

 まあ、ある意味非常に人間臭いですよね。人間なら誰しも持ち合わせてしまう部分だと思います。

 序盤はずっとこんな感じで胸にモヤモヤが溜まりっぱなしでした―――が、このモヤモヤは最終章で一気に解消されていきます。メルもユキマサもヤコポも、ミシェルの介入によって自らの行いを悔い改め、彼らの魂はようやく「解放」に向かっていくわけです。この辺はほんと痺れましたねー…。「ここで繋がるのか!!!」とびっくりしました。本当に、同人発とは思えぬクオリティです。

 

○ミシェルの成長譚

 この話はミシェルの成長譚的なところもあって、終盤での彼の言動には何度も胸が熱くなりました。自身の魂に恥じぬ生き方を選択するミシェルは、非常に魅力的な主人公だと思います。ラストがもうね…マジで感動しました。最後また巡り合えて本当によかった。ジゼルとミシェルに幸あれ。

余談ですが、転生後のミシェルって生物学上の性別はどうなっているんですかね?? 流石にちゃんと男かな。

 

○モルガーナの右手に関する一考

 ユキマサに切り落とされたモルガーナの“右手”がなんだか凄く印象的だったので、それに関して少し妄想をしてみました。

 宗教に関してはマジで無知 of 無知なので、Google先生に相談して宗教上の右手、左手が持つ意味に関して調べてみました。

ミシェル・ボランジェがフランス出身だから、キリスト教が一番近いのかな…?? ミカエル(=ミシェル)は旧約聖書発なので、ユダヤ教キリスト教イスラム教辺りに引き継がれているとのこと…。まあこの辺の宗教を念頭に置いておけば問題なさそうですね。

 話を戻しますと、各主要宗教においてはどこも「右尊左卑」の考えがあるようです。すなわち、右手を神聖なもの、左手を不浄なものとする考えです。左手はあまり良いイメージが無いようです。ヒンドゥー教とかは分かりやすいですよね。食事は絶対右手だし、「不浄の手」である左手での握手や物の手渡しは失礼とされています。キリスト教でもまた、復活後のキリストが父の右側に座ったり、悪魔の利き手が左だったり、左利きが異端扱いされたりと、「右尊左卑」の考えがうかがい知れます。

さて、右手に強い聖性があるとすると、それを切り離されるという描写は本作品においていかなる意味を持つのでしょうか。2点妄想します。

 1点目は、単純に「モルガーナが聖性を失った」ことの表象なのではないか、という妄想。モルガーナにとって聖性(=神の子であるという自意識)は、彼女にとって最も重要なアイデンティティであり、精神的支柱でもありました。だから、彼女が右腕を失うという描写は、彼女の聖性が失われた、という事以上に、彼女の精神面での崩壊を強調する意図があったのではないかと考えられます。

 2点目は、「白い髪の女の誕生を決定づける」という意味あいがあったのではないかという妄想。最終盤で発覚することですが、モルガーナが魔女となってしまうあの世界線において、「白い髪の女」は実在しません。あれはモルガーナのもう一つの人格であり、彼女の清い部分が分離したものとされています。この人格分離、なんだか例の出来事と凄くオーバーラップします。そう、例の右腕切断の件です。右手=聖性が強い=白い髪の女の象徴とすると、この出来事が白い髪の女の誕生(≒聖性の分離)を決定づけたもの、と考えるのは妄想に難くありません。信頼していたメルに裏切られ、見知らぬ男にいきなり腕を斬られる…。モルガーナが感じたこの時の衝撃や怒り、悲しみ、etcは筆舌に尽くしがたいものです。この時の強いストレスこそが、人格分離をもたらす引き金になったのではないでしょうか。

なんだか書いててめっちゃ腹立ってきました(笑。ユキマサはもう少し報いを受けてほしいものです…。

 

○「舞台裏」も良かった

 クリア後に見ることが出来る「舞台裏」も秀逸でした。各キャラやストーリーへの理解が深まりましたし、なによりクリエイター陣のこの作品に対する愛が感じられましたね。ちょっと所々ふざけすぎな感じもしましたが(笑、本編が究極に鬱なので、むしろこのくらいで丁度よいのかなと思いました。

  

○音楽

 歌詞のある幻想的な楽曲が多く、作品の世界観に非常にマッチしていました。公式も言っていた気がしますが、イヤフォン推奨です。付けた時の臨場感が本当に凄まじい…。

あと非常に残念なお知らせですが、本編だとキャラクターボイスがありません。無くても十分面白いんですけどね。後述の現代編には櫻井孝宏堀江由衣などの豪華キャストが付くので期待大。

 

○絵

いわゆる「耽美系」的な感じですかね。エロゲの萌え絵に慣れた私には新鮮でしたが、こちらも音楽同様作品の雰囲気によく合っていたと思います。

 

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○システム面

 正直、ゲームのシステム面はあまり良くないです。最近のノベルゲーに慣れてると、快適さに欠く点は否めません。バックログは見にくいし、場面移動も限定的だし、ウィンドウの透け感は調整できないし…、と気になる点は多かったです。まあストーリーが最高なのであんまり気になりませんでしたがね。Vita版で改善されることを祈ってます。

あと、元からあまり期待していませんでしたが(笑、3DSなだけあってグラフィックは結構粗いです。文字表示自体は大きめなのでそこまで支障は無かったのですが、画数の多い漢字だとたまに読みにくいのがありました…。まあこの辺はしゃーないですね。

 

 

▼まとめ

 総じて非常にクオリティの高い作品でした。もうまじで、プレイできる時間とハードがあるなら是非ともやってほしいです。クリエイターの熱い思いが込められた、傑作だと思います…。最近良いノベルゲーに出会えてなかった私にとってはまさに希望の光でした。

2017年1月現在ではプレイ環境がPCと3DSのみですが、3月16日にvita版が出ます。vita版は、3DSでも楽しめる「本編」に加え、「外伝」も付き、さらにはフルボイスの「現代編」が新たに実装されたCOLLECTED EDITIONとなっています。また、ウェブや誌面で公開されたSSなんかも収録されるそうです。豪華すぎるぜ…!!

「よりきれいな画面でプレイしたい」

「快適なシステムで楽しみたい」

「どうせなら本編だけでなく外伝も楽しみたい」

「現代編でポーリーンの声を聴きたi(ry」

という方は是非ともvita版をプレイしましょう。ステマっていうか、もはやダイマです(笑。いやー久々に良い作品に出会えて本当に幸せでした。

 

(追記)3DS版はダウンロード配信のみなので、プリペイドカードとかで課金してニンテンドーeショップで購入することができます。1000円以内で購入できるので、本編だけでいいなら現状一番お買い得かも……。